*オリジナル展開注意*
レインがアンティノの秘密研究所で、エクリプスを打ち負かしていたのとほとんど同時刻――。
獅子帝は大陸北西部にいた。聖光石の廃鉱とアハブの、ちょうど中間辺りにある迷宮である。
人工の通路は狭く、薄暗い。うち捨てられてずいぶんと長い時間が経ったのだろう。壁にすえられた聖光石の魔法ランプも、動力の魔道力を失って、ただの飾りとなっていた。
その魔法ランプに魔道力を送り込みながら、ネメアはずんずんと迷宮の奥へと進んでいく。彼は一人であった。近衛たちは連れていなかった。
というのも、闇の神器を探すのは骨が折れる。所在がわかっているものは、『禁断の聖杯』と『色惑の瞳』という宝石だが、どちらもロストール領内にあったはずだ。『禁断の聖杯』に関しては、何者かが盗み出したとか聞いたが、それを追うにせよロストールには立ち入らねばならない。
ネメアの立場ではこれが難しい。ただでさえ目立つのだ。この戦時下にあってはさらに目立つ。面の割れていない近衛連中には、ただの冒険者としてリベルダムからロストール領内に先行してもらっている。
ネメアはネメアで所在不明の神器のいくつかについて、帝国領内を探し回っている最中であった。『忘却の仮面』『虚無の剣』『貪欲の盾』『憤怒の鎚』――残りの一つは名すら知れない。
『忘却の仮面』は帝国領内の隠れ里ミイスにあったが、何者かに村を焼かれた上に神器は持ち出された。灰になった村のそこかしこから、わずかな闇の力の残り香を感じた。ミイス村を焼いたのは、十中八九、魔人かその眷属に違いない。
闇の神器の一つが魔人の手に渡った――今のネメアにはのっぴきならない状態である。
突然の侵入者に浮き足立つ怪物たちをなぎ倒しながら、ネメアは迷宮の最奥部に足を踏み入れた。
不自然なことに、最奥部の玄室には明かりが灯っていた。高いドーム型の天井に埋め込まれた、聖光石の煌々とした明かりが広い室内を照らしている。玄室の中央には古い石棺があった。見るからに重そうな石の蓋は外されて、床に転がされている。石棺の中には何もなかった。古代の権力者の墓であろうが、盗掘にあったのは目に見えて明らかであった。
妙な空気の流れも、おかしな魔力の波動も感じない。どうにもハズレのようである。
けれども、ネメアは引き返そうとしなかった。青い獅子の目で、空の石棺の向こうを睥睨している。
何か塵のようなものが、石の床にわだかまっている。長い年月で降り積もった土ぼこりというわけではない。もっと、別の、何かである。
黒い塵は不自然な動きで盛り上がると、小柄な人型をかたどった。そして、その黒い人型の小さな頭の部分に、白い面が浮かび上がったではないか。水中から水面へと顔を覗かせるような様子だった。少年のような、少女のような、とにかく幼い子供の面である。切れ長の黒い瞳が、ネメアの姿を捉えてにやりと歪む。
黒い人型に取って代わるようにして、虚空から現れたのは少年であった。絹糸のような長い黒髪が、白い瓜実顔を囲っている。顔面に張り付いたにやにやした笑みが、年齢を感じさせない。異国風の衣装をまとっていた。
こんにちは、と少年は場違いな挨拶をした。ひょいと飛び上がると、つま先で石棺の欠けた縁に立つ。重さを感じさせない動きだった。
「……何者だ」
ネメアが青い瞳の鋭さを増して、少年を睨みつけた。
「レインから聞いてるんじゃないの」
小僧は口もとを片手で覆って、くすくすと笑った。それから、まぁいいか、とネメアを見据える。
「システィーナの伝道師が一人、『東方の博士』シャリと申します。はじめまして、こーてーへーか」
少年はニヤニヤ笑いながら、恭しく礼をした。狭い足場の上で腰を折った彼は、崩れたバランスを仰々しい動きで保とうとする。手足をバタつかせるたびに、墨色の衣がはたはたと揺れた。
システィーナの伝道師のシャリ――レインが警戒しているらしい小僧の名である。なるほど。彼女の言う通り、どうにもただならぬ輩である。
神聖な力も感じなければ、闇の力も感じない。おおよそ、人間の気配ではなかった。いうなれば、『虚無』である。目の前にいるのに、いないような、がらんどうの気配がする。
東方?――ネメアは眉根を寄せる。槍を構えこそしていないが、決して油断もしていなかった。
「外の大陸からの漂着者か。それにしては、ずいぶんと流暢に話すものだ」
「勉強家なんだ」
「なるほど」
少年はくすくす笑う。
「そうそう、君がお探しの闇の神器だけどね。ここにはないよ」
「……そのようだな」
シャリは踊り跳ねるように、石棺の細い縁の上を歩き始める。相変わらず、重さを感じさせない動きをする。
いいねぇ、とシャリは笑った。
「君が何もしなくても、神器を集めてくれる子がいてくれて。君のかわいい、かわいいレインが順調に神器を集めているよ」
言って、シャリは白くて小さな細い指を、一つひとつ折り曲げる。
「束縛の腕輪でしょ。焦燥の耳飾り、傲慢の首飾りに色惑の瞳――それから、禁断の聖杯に忘却の仮面。彼女は健気だねぇ」
ネメアは沈黙したまま、石棺の縁に立つ少年を見上げた。石棺の縁を渡ってきたシャリは、ついにはネメアの正面にまで来ている。
どういう経緯があるかは知らないが、レインはネメアの知らないところで、宝石と聖杯と仮面の、神器三つを手に入れたらしい。シャリの言葉が真実であるならば、彼女は今も無事であるようだ。
安堵はしたが、それを表に出すほど、ネメアも間抜けではない。
「私がそう命じたわけではない。あの子にはあの子の思惑があるのだろう。私の知ったことではない」
つれないねぇ、かわいそうに、とシャリは紅を引いたような赤い唇を歪めた。がらんどうであった気配が、揺らぎ始める。
「じゃあ、命じたほうはどうかな。君に忠実な騎士たちは」
小僧の言葉に、ネメアは眉間のしわを深くした。
「……オイフェたちに何をした」
シャリはくすくすっと笑い、赤い唇の上に自らの人差し指を乗せた。
「ひみつ」
シャリの小さな体が、空中に飛び上がった。その瞬間、閃いたランカの穂先がその小さな体を引き裂いた。胴を真っ二つに薙がれた少年は、しかし、真っ白な顔面ににやにやした笑みを張り付かせたままだった。
真っ二つになったにも関わらず、小僧の傷口からは血も出ない。煤のような塵のようなものが、虚空に散らばっただけだった。
すると突然、千切れ飛んだ少年の上半身が、ぶくりと膨れ上がった。その小さな体の内部から、爬虫類のあぎとのようなものがずるりと飛び出し、大きく開いた口内から真っ赤に燃え上がる石を吐き出してきた。
少年の体を引き裂きながら出現したのは、サラマンダーであった。三対の大きな翼をこすり合わせ、しきりに威嚇音を鳴らしている。
千切れ飛び、顔面だけになった少年の白い面が、空中をさまよいながらにやりと笑った。
あははははははは、きゃははははははは……。
耳障りな甲高い笑い声を残して、幼い顔面は千々に乱れて虚空に消えた。
サラマンダーが吐き出した火の石を避けたネメアは、怪物の大きなトカゲ然とした頭にランカを振り下ろした。鱗が飛び散り、欠けた角が石畳の床に転がって音を立てる。
すぐさま大槍を引き戻したネメアは暴れる大蜥蜴の横手に回りこむと、石棺で相手の動きを封じながら槍を振るった。三対の翼のうち、左翼の三枚を切り落とす。サラマンダーは大きな尻尾を振り回して、さらに暴れた。その拍子に石棺が砕かれ、瓦礫と化す。
サラマンダーの吠え声が、場の精霊に干渉し、魔法の効果を伴ってネメアに向かってくる。それを、力ずくでねじ伏せて、槍を振るう。振り上げたランカの穂先がサラマンダーの顎を砕いた。さらに振り下ろす刃が化け蜥蜴の長い首を切り落とした。
サラマンダーの大きな頭が石の床に転がる。残った巨体がどぉっと倒れ伏すと、玄室には静寂が訪れた。もはや、シャリの気配はなく、ネメアの魔道で追えるほど間抜けでもなかった。
エスケープによって迷宮を脱したネメアは、頭上に広がる満天の星空を見上げた。その一つひとつの小さな光が、レインの瞳に宿る魂の炎の色に似ている。
十二ある神器のうちの六つが、あの子のもとに集まっている。あの虚無の気配を持つ小僧も、彼女の動向に気を配っている。ネメア以上にだ。
これから先、彼女にはさらなる危険と困難が待ち受けるだろう。そこにネメアはいてやれない。
暗く闇夜に沈むアハブの町を見下ろしながら、ネメアは右手の革手袋の下にはめている指輪を確かめた。
「……どうか、あの子を導いてやってくれ」
ネメアの祈りのような独り言は、聞く者もなく夜の虚空に消えた。
帝都に戻ったネメアは急ぎ、近衛のオイフェたちの動向を調べさせた。彼女らの行方が知れたのは、ネメアが北西の迷宮でシャリと接触を持ってから、一週間近く経ってからのことであった。
というのも、リベルダムからエンシャントに向かう船便が、ひどく遅れたのである。これは内海の潮流が平素とは違う動きをしていて、それが船の航行を妨げたのだった。
無論、この潮流の動きはレインたちが海蝕洞に侵入するために、無理やりに潮流に干渉したためである。不自然に動かされた潮流は元に戻ろうとし、普段とは違う動きをしたのであった。
潮の流れが戻ろうが乱れようが、ネメアには関係がなかった。長距離テレポートが可能な彼は、リベルダムまで赴くのにわざわざ船を使わないからだ。
無残にも破壊された町のそこかしこで、戦から早くも立ち上がり始めた人々が生活を始めている。軍に雇われた人足たちが、調子っぱずれの労働歌を歌いながら、もっこを担いで瓦礫の撤去作業をしている。通りの端にまで張り出した天幕の下で、商人が露店を開き、女衆がかき混ぜる大鍋からいい匂いが香る湯気が立ち上る。やせた犬を追いかけて、子供らが石畳の上を駆けていく。瓦礫の中から拾い上げたらしい棒切れを振り回しながら、勇ましく鬨の声を上げている。
粗末な麻の外套に頭からすっぽりと身を包み、たった一人で瓦礫の町を歩んでいく男を、まさかディンガル皇帝だと思う者はおるまい。ましてや、リベルダムには冒険者ギルドの本部がある。大槍を携えた甲冑姿の男が歩いていても、ただの冒険者だと思われて終いである。
町の北東側には青竜軍が駐屯しており、特に百人会議の会議場は、軍部が接収していた。会議場は大きな二階建ての建物で、鉄格子の大きな門と塀に囲まれた広い敷地を持っている。
門に寄って行くと、青竜軍の門衛が携えた槍を強く握った。幼いともいえるような若い顔を、緊張に強張らせている。
青竜軍に何用か、と若いのが威嚇するように言うので、ネメアは外套の頭巾を後ろに落とした。翻った金髪に、門衛がぎょっと身を強張らせたのがわかる。
「私の近衛が厄介になっていると聞いた。案内を頼む」
リベルダムから届いた報せによれば、南部で隠密行動を取っていたオイフェたちは何者かと交戦し、リベルダムの青竜軍駐屯地にて救護を受けているらしかった。
広い建物内を案内された一室は、休憩室のような作りになっていた。もとがリベルダム市民の建物であるから、調度品は不自然に豪華である。
天井からは水晶飾りの付いた大きなシャンデリアが下がっている。壁際の棚には貴重な年代ものの酒が綺麗に飾られており、その傍には大きな大理石のテーブルとアンティークものの椅子が並べられている。武装を解いたゼリグとドルドラムがそこに腰かけていたが、入ってきた主を見て驚いたように立ち上がった。
「無事か」
ネメアの言葉に、ドルドラムが言った。
「わしらは軽いもんですみましたが、オイフェがまともに攻撃を受けましてな」
ドルドラムとゼリグは、治療の跡が残る腕や手を庇うようにした。薬を塗っているらしく包帯が巻かれている。
ドルドラムが部屋の奥に向かって、ネメアを促した。短躯の彼の後を、ネメアとゼリグが続く。
部屋の奥にはもう一部屋あった。ドルドラムがノックをすると、不機嫌そうな返事がある。
部屋は寝室になっている。もとは天蓋が付いていたのだろうが、それを無理やりに取り払ったような大きな寝台が、部屋の中央に置かれていた。清潔な寝具の中に、埋もれるようにして小柄なダークエルフの女が寝かされている。
まだ体の至るところに包帯を巻かれたオイフェは、億劫そうに部屋の入り口にアメジスト色の視線を向けた。そこに現れた黒い甲冑に、慌てて身を起こそうとする。
「よい」
ネメアは短く言ったが、オイフェはそれでも無理やりに身を起こした。それから、苦々しい顔を浮かべて、申し訳ありません、と詫びた。
「――それで、何があったのだ。お前たちほどの手練れを追い詰めるとは、ただものではないだろう」
「システィーナの伝道師、と名乗っておりました」
寝台の脇に立つネメアに、ドルドラムが椅子を勧めながらそう言った。それを遠慮しながら、ネメアは表情を険しくする。
また、その名か……鬱陶しいことだ。
「闇の神器『貪欲の盾』を持つ旅の僧が、盗賊にやられて殺されましてな。その盗賊を追っておりました」
リベルダムからロストール領内に入る街道は二つある。竜骨の砂漠の北側を通るルートと、南側を通ってノーブルを経由するルートである。この北側の街道から少し分断の山脈側に外れたところに、盗人村という小さな集落があった。
あった、というのは文字通り、今はもうないのだ。
自給自足の農業程度のことはやっていたが、農村というよりはどちらかというとならず者どもの集まり、といった様子の集落であった。ここの連中が、旅の僧侶からそれとは知らずに貪欲の盾を強奪してしまったのだ。
それを知ったオイフェたちはその盗人村へと急行したのだが――。
「たどり着いたときは、集落のものはほとんど殺されておりました。男も女も、年端もいかぬ子供すら」
ドルドラムは続けた。
砦の奥に、集落を強襲した犯人がまだいたのは、彼らにとって幸いでもあったし不幸でもあった。犯人はバイアシオンでは珍しい丸メガネをかけた、ローブ姿の男であった。
彼はシスティーナの伝道師『黒の祈り』のジュサプブロスを名乗ったという。
経緯を聞き終えたネメアは思案する。レインがザギヴに宛てた手紙――これはザギヴがネメアに見せてくれた――には、ゾフォルとシャリの名はあったが、そのような名はなかった。その男はまだ彼女と接触を持っていないと見るべきだろう。
「それで、『貪欲の盾』はどうした」
「幸いに、生き残りがおりましてな。ゼグナ鉱山に隠した、と」
ゼグナ鉱山は王都が近い。ネメアのテレポートなら一瞬だが、それでもひどく目立つだろう。
ロストールを混乱させる必要があるようだ。それも、早急に。
その『黒の祈り』のジュサプブロスがどういう手合いかは知らないが、闇の神器を一つ求めるのに、小さいとはいえ集落一つを全滅させている。急がねば、そういう集落が増えるだろう。特に、ゼグナの辺りは小さな集落がいくつもある。
ネメア様、という寝台からの呼びかけに、ネメアはそちらに顔を向けた。オイフェは具合の悪そうな小さな丸顔を、憎々しげにしかめている。
「あの男――ジュサプブロスという男、あれはダークエルフです。私にはわかります」
「そうか。お前が言うのなら、そうなのだろう。――よい。ゆっくり傷を癒せ。どうせ、すぐには動けぬ」
ネメアの言い分に、オイフェはさっと顔を俯けた。彼女は何だか、納得のいかない顔をしていた。
次いで、ネメアは青竜将軍のカルラに会うことにした。
カルラが執務室に使っているのは、会議場内で一番日当たりのいい部屋だった。もとはどういう部屋だったのか知らないが、高価なだけの調度品がところ狭しと並べられている。
踏み出した鉄靴が、床に敷かれたサーベルタイガーの毛皮を踏みつけたので、ネメアは思わず顔をしかめた。
カルラは大きな執務机の横に立ち、わざとらしく慇懃無礼な礼をよこしてきた。執務机の上には溜まりにたまった書類が山積みになっている。
部屋の中央まで歩み寄ってきたネメアが、
「……よい趣味だ」
と言うと、カルラはにやりと笑った。顔の半分を無理やり歪めるような、歪つな笑みであった。
「ここ、倉庫なんですよ」
「なるほど」
どうぞ、おかけになって下さい、とカルラは綴れ織りの豪華なソファを勧めたが、ネメアはそれを遠慮して、窓辺に立った。皇帝の御前にもかかわらず、カルラは遠慮なしにソファに腰かける。
窓の外には庭が広がっていたが、丁寧に整えられていたはずのそこは、すっかり資材置き場になっている。足りない木材を調達するためか、切り株が整列していた。
見張りが巡回する鉄柵の向こうには、瓦礫の山と化した町が広がっている。遠くに半分に折れてしまった、大時計台が見えた。無残である。
「ずいぶん派手に壊したものだ。宰相や内務統括の渋い顔が目に浮かぶ」
「いやぁ、あたしのような田舎娘には、経済のことなんてさっぱりぷーなもんで」
カルラはへらへらと笑って、肩をすくめた。
大陸で最も金が動くこの都市を、ここまで徹底的に破壊したのだ。当然のように経済に影響が出る。リベルダムの恩恵を受けていたロストールは言うに及ばず、それは当然、帝国にも影響するのだ。何せ、ここまで壊した都市を再建する金を捻出するのは、結局のところ帝国である。
宰相やザギヴはさぞ胃を痛めていることだろう。
それで、今日はどういったご用件で――カルラは馬の尾のように長い自慢の髪を手ぐしでなでながら、カルラは窓辺に立つ黒甲冑の背中を見上げた。
「オイフェたちにはもう会ったんでしょう?」
カルラの問いかけには応じず、ネメアはソファに座る彼女を振り返った。
「――ロストール攻略を急げ。できるだけ派手にやれ」
「できるだけ、ですかぁ? どんだけです?」
「背中に気が回らないくらいだ」
なーるほど、とカルラは言った。それから、死神の顔をして、少しだけ考えるそぶりを見せる。しかし、すぐさま立ち上がって、ネメアに向けて見事な敬礼をよこした。
「陛下が指揮を執られるなら、兵どもの士気も上がりましょう。奇策は必要ありますまい。派手に宣戦布告してやりましょう」
そう言って、にやりと笑う。
ところで、とカルラはいつもの調子に戻った。気をつけの姿勢を崩し、だらしなく左足に体重をかけて立っている。
「レイネートの事を聞いていますか?」
「レインの何をだ」
しかめ面を浮かべたネメア相手に、ロセン解放軍ですよ、とカルラは平然として言った。
「あの剣聖を連れて二人で、青竜軍だらけのロセンに乗り込んできたんですがね」
レーグと関わったのか、とネメアは内心でため息をついた。どこでどう知り合ったのか知らないが、レーグに強さを見込まれたのだろうことは想像がついた。あの娘の困ったような顔が、容易に想像できておかしかった。
小さな笑みを浮かべたネメアを、奇妙なものを見たような顔をして、カルラはしげしげと眺めている。
「それで?」
「あ。ええ、それで――こちらとしても知らぬ仲ではないですし、一応、勧誘したんですがね。あいつ、何て言ったと思います」
「さぁ。想像がつかんな」
「皇帝にしてくれるなら、戻ってもいいって」
ほぉ、と満足げに唸って、ネメアは笑った。カルラがぎょっとしている。
「それはずいぶん嫌われたものだ」
そう言って笑うネメアの顔は、珍しく朗らかである。
神聖王国暦一二〇四年五月某日――リベルダムを陥落させたディンガル帝国青竜軍は、ロストール王国に対して大々的な宣戦布告を行った。
これが、ディンガル帝国による第二次ロストール侵攻の幕開けであった。
◇ひとこと◇
ストーリー捏造職人の本領発揮である。