ロセンの鐘を鳴らせ

 レインは、いかにも旅の途中の冒険者といった風体でロセンに入った。外套の下に貴重品と簡単な道具の入った背嚢を背負ってはいるが、肩に背負った大きな荷のほうはどうでもいいものを詰めた見せ掛けの荷物である。レーグに持たせた荷のほうも同じだ。
 ボルダン族はその見かけによらず、身軽な者が多い。荷を持つのを嫌がるかな、とも思ったが、レーグは黙ってレインの言葉に従った。剣を預けると言った手前、彼女の言葉にはなるべく逆らわないつもりなのかもしれない。
 ロセンの町はいつか訪れたときと何ら変わらぬ様子であった。完全に復興したわけではないが、カルラの掛け声によって徐々にもとの町並み――かなりディンガル寄りにはなっているが――に戻りつつある。建築資材が路地を埋め、その前で露天商が品物を広げる。そこに、女たちが群がってああだこうだと井戸端会議を始める。威勢のいい男衆の掛け声が聞こえたと思ったら、大きな荷を積んだ大八車を引きながら、人足たちが通りを過ぎていった。
 レインはまず、冒険者らしく、ギルドに向かうことにした。ギルドの中は以前に訪れたときよりも人が多かった。レーグを外で待たせ、少しばかりギルド内を見回した後、彼女はカウンターに寄った。顔は隠していない。
「何かいい仕事があるかな」
 ひげ面の親仁は、少しばかり帳面を繰って、そうだなぁ、と言った。
「どんな仕事が好みだい」
「……何でもいい。金になる仕事だ」
 親仁はいくつか仕事を紹介してくれたが、レインはそのどれもに頭を振った。また来る、と言い残して、ギルドを出た。
 レインは再びレーグを伴って、通りを広場のほうへと向かった。
 ロセンの町の新しい中央広場には、悪趣味な像が立っている。金ぴかの、カルラの全身像だ。金メッキで装飾された青い死神の像は、陽光に照らされて、ギラギラと光っていた。
 円形になった広場は、閑散としていた。人っ子ひとり、見当たらない。
 だが、レインもレーグもまったくそれに驚かなかった。どちらからともなく、自然と足を止めて、金ぴかのカルラ像を二人して、無言で見上げる。
 すると、そのカルラ像が、ひょっこりと動いたように見えた。少女の全身像が高く結い上げた髪が、揺れたように見えたのだ。
「あーあ、ばれてーら」
 言いながら、カルラ像の向こうから、その像とそっくりの少女が、ひょっこりと顔を覗かせた。童顔の丸い面に、にやにやとしたいたずら好きの笑顔を張り付かせている。
 自らの像に立てかけていたらしい大鎌を肩に担ぎ上げると、自分の像が立っている台座から、ひょいっと飛び降りた。人の背丈の二倍はあるだろうその台座から、カルラは綺麗に着地して、ひたりとレインを見据えた。栗色の、丸い目をしているが、どうにも油断ならない印象を受ける。
 実質、印象どおりの女である。
 レインがカルラと出会ったのは、まだロセンが鎖国状態にあったときのことだが、そのころから印象はあまり変わっていない。彼女の親弟妹の仇であるペウダのもとへ乗り込んだのだが、そのときだって、逃げ道の確保は忘れなかった。ペウダを暗殺しようとしたときは、さすがに感情に流されているのかとも思ったが、レインの制止にあっさりと鎌を収めたりと、物事を感情と切り離して考えられる女であった。
「演技力が足りないんだよ」
 レインは言った。
「路地を塞いでいる商人やら、ギルドに詰めてる冒険者やら。あれ、全部、兵士だろう」
「わかってて来たわけ?」
 やるじゃん、とカルラはけらけらと笑った。
「あんたのことだから、こうやって待っててくれてると思ってね。なぜ、私が今日、ロセンにやってくると知っていたんだ」
 こちらの問いかけに、カルラはにやりと笑った。
 レインが今日ロセンで青竜軍の動向を探ると決まったのは、つい一週間ばかり前のことである。青竜軍の草が、解放軍の内部にいるとしても、あまりにも情報が筒抜けだ。
 解放軍の、それもかなり中心に近いところにでも、裏切り者が潜んでいない限り――。
「で、どうすんの?」
 カルラは相変わらず、ニヤニヤと笑っている。広場を囲む背の高い建物から、甲冑に身を包んだ兵士たちが、広場へとなだれ込んできた。窓や屋上からは、弓兵や魔道士が、こちらを狙っている。
「たった二人相手に物々しいことだ」
 そうでもないんだなぁ――カルラは芝居がかった調子で、指を振った。
「あんたたちを捕らえて、反乱軍連中のアジトも一網打尽よん。今ごろ、うちの黒鎧騎士どもが向かってんじゃん?」
 なるほど、とレインは笑った。快活に、声を上げて。
 でしょ、とカルラも笑った。朗らかに、腹を抱えて。
「捕らえられればいいな」
 レインは言うなり、背負った荷物を自分を取り囲む兵士の一団に放りやった。一瞬ひるんだ彼らに向かって、一足飛びに間合いを詰めたレインの槍が、一振りに三人を切り伏せる。
 兵士の群れの中に紛れ込んでしまえば、矢も魔法も撃てはしない。あるいは撃てたとしても、兵士たちが盾になる。居並ぶ彼らを叩きのめしながら、退路を切り開くレインの前に、さっと大きな人影が躍り出た。
 大きな体を覆い隠していた鬱陶しい外套を脱ぎ捨て、二刀の大太刀を閃かせる。兵士たちが構えた槍の柄といい、穂先といい、バターを切るようにして打ち払っていく。
 レーグはレインの前やら後ろやらで、八面六臂の活躍を見せた。強者との戦いを望む彼にしてみたら、雑兵とやりあうのは退屈なのかもしれない。だが、何も言わずとも、レインの道を切り開いてくれるのはありがたかった。
 大通りでは町人に扮した青竜軍の兵士たちが、あちらこちらから襲い掛かってくる。
 短剣で切りつけてきた女兵士を殴り飛ばしながら、レインは視線を巡らせた。どうにかして、解放軍のアジトにこの緊急事態を知らせねばならない。
「レーグ、こっちだ」
 レインは路地を封鎖する資材を飛び越えた。その後ろから、大きな体で路地を塞いだレーグが、追いすがってきた兵士たちを切り伏せた。
 レインはレーグがついてきているかも確認しないまま、曲がりくねった路地を通り抜けて、町の入り口近くにある大鐘楼をひたすらに目指した。こちらが気にかけずともレーグは追ってくるだろう。
 垣根を乗り越え、人家の庭を無遠慮に横切った。どうやら外出を禁止されているらしい町民が、家の中から脅えたような視線を送ってくる。
 ロセンの大鐘楼はこの町を囲む高い城郭の一部にある。ロセンは背の高い建築物の多い町で、自然と城郭も高くなる。その中で一際高いのが、大鐘楼であった。リベルダムの大時計台と同じくらい高いのではないだろうか。
 レインは槍を閃かせて、居並ぶ兵士たちを切り伏せると、背中越しにレーグに向かって声を張り上げた。
「ここを守れ」
 言いながら鐘楼の中へと走りこんだレインの背中に、兵士たちが追いすがる。その鈍色の甲冑ごと、分厚い段平の刃が兵士の群れを叩き潰した。

 
 下の喧騒を聞き流しながら、レインは狭くて急な鐘楼の階段を駆け上がった。壁から生えているような、幅の狭い木製の古い階段である。レインはそれを長い脚で二段、三段と飛ばして駆け上がっていく。
 申し訳程度に取り付けられた、細い手すりは彼女がちょっと手をかけただけでがたがたと揺れた。その向こうは一階から鐘突き台まで吹き抜けで、落ちればひとたまりもない高さまで来ている。
 レインはひと息吐いて、再び狭い階段を駆け上がっていった。
 階段の終わりには狭い踊り場とはしごがあって、レインが手を伸ばせば届く距離に天井があった。その天井に、はね板があって、錠前つきの鎖が侵入者を拒んでいる。
 はしごに足をかけてしがみつきながら、レインは腰のナイフを抜いた。力を込めて何度か鎖に刃を立てる。下が騒がしい。誰かが階段を駆け上がって来るような音がする。乱暴に鎖を破壊して、板を跳ね飛ばすようして鐘突き台へと飛び出した。
 逆手に持ったナイフで鐘の舌を止める縄を乱暴に切り、それを力ずくで引っ張った。鐘の音がロセンの町といわず、その外にまで響き渡る。
 カーンコーン、という鐘の音が、レインの鼓膜どころか全身を振るわせた。鐘のほぼ真下にいるレインには、耳を塞ぎたいほどにうるさい。それでも、彼女は鐘を鳴らすのをやめなかった。
 レインが鐘の舌につながる太い縄を手放して、槍を構えなおしたのは、階下につながるはね板が開くのが見えたからだ。いまだ揺れる釣鐘を中心に、はね板とは対角線になるように移動する。
 はね板の下から、風になびく栗色の長い髪がひょっこりと現れた。カルラが頭の高い位置で一つに束ねている髪である。馬の尾のようなそれを揺らしながら、彼女は揺れる釣鐘を無理やり押さえ込んで止めた。
 ああー、うるさい、とのん気な風にしている。
「よく上がって来れたな」
 レインは鐘突き台の端に寄って、穿たれた窓から下の戦場を見下ろした。鐘楼の入り口はすでに血の池のようになっている。
「突破できりゃいいのだよん」
 カルラは言って、にやりと笑った。
「兵士を盾にしたのか。かわいそうに」
「あんたが言うかね」
 カルラは大鎌を肩に背負ったまま、大きな釣鐘の横に立った。得物の大鎌にもたれかかるようにしながら、続ける。
「で、どうすんの?」
「さぁ、どうするかな」
 レインはのん気に言いながら、まだ鐘楼の下を覗きこんでいる。
 あのさぁ、提案なんだけど――カルラもまた姿勢を崩さずに言った。
「あんた、ディンガルに戻ってこない? 赤だるまのおっさんに取られちゃったから言わなかったけど、本当はさ、あたしが誘おうと思ってたんだよ」
「……待遇によるな」
 レインは言った。鐘楼の下から、視線をカルラに移した。
「どうしたいわけ?」
 そうだなぁ、とレインは小さく笑った。
「皇帝にしてくれるなら戻ってもいい」
「冗談でしょ」
 カルラがけらけらと笑った。レインもそれにつられるようにして笑う。
 レインはふと笑顔を消すと、ひょいと跳び上がって鐘突き台の窓辺に立った。窓といっても当然ガラスも戸もない。レインがちょっと足を踏み外せば、彼女の体は下の石畳に落ちて叩きつけられるだろう。
 駆け出そうとしたカルラに向けて、レインは不適に笑った。
「さぁ、それはどうかな」
 飛び出したカルラが肩に負った大鎌を振るうのと、レインが空中に身を躍らせるのとは、ほとんど同時であった。
 鋭い死神の鎌の切っ先をかわしたレインの体は、真っ逆さまに空中を落ちていく。その途中、不自然に張られた太いロープに、レインは手を伸ばした。魔道の風がそれを補助する。
 ロープが大きくたわんで軋んだ。落下の勢いを殺したレインは、ロープから手を離し、再び重力に身を躍らせる。
 藁束を山と積んだ荷車が、不自然に石畳の上に置かれている。藁しべを撒き散らしながら、レインはその上に綺麗に飛び込んだ。藁山から溺れるように抜け出すと、転がるようにして荷車から降りる。
「レーグ!」
 仲間の名を呼んで、町の出口に向かって駆け出す。群がる兵士たちをものともせずに、レインは開きっぱなしの城門から脱出した。

 
「カルラ様」
 鐘楼の鐘突き台にて、去りゆく反乱者をじっと見送っていたカルラは、背後からかけられた声に振り返らなかった。
 ロセンの町は戦場さながらに、血の海と化している。前線に配置した兵どもは、東方の捕虜や新兵であった。青竜軍の主力を投入していなかったとはいえ、たった二人に手ひどくやられたものである。
 レインが鐘楼から逃げ出すために使った太いロープを見やる。鐘楼の中ほどの石壁と、向かいの背の高い建物の屋上を不自然に結んでいる。誰かが、屋上から鐘楼に向けて縄付きの石弓を放ったに違いなかった。ご丁寧に、藁を満載した荷車を着地地点に置いて。
 誰が?――レインは確かにもう一人の仲間との二人連れであったはずだ。ほかに誰かを連れている、もしくは誰かを潜入させているという話は聞いていない。
 アンティノ=マモンめ……予想以上に使えない男だ。カルラはそこで、ようやく背後を振り返った。
「んで、どったの? アイリーン」
 カルラの副将は、釣鐘の隣で生真面目に気をつけの姿勢を取っていた。カルラの問いかけに、はっ、とこれまた几帳面に返してくる。
「申し訳ありません。反乱軍を取り逃しました」
「だろうねぇ」
 カルラは言った。叱責はすまい。レインの名が反乱軍の中にありながら、彼女のことを甘く見た自分の責任だ。
「追っ手を編成しています」
「うんにゃ、いい」
「は?」
「追っ手はかけなくていいよん。それより片付けよろしくー」
 カルラはひらひらと手を振りながら、アイリーンの脇を通り過ぎた。それから、鐘楼を降りるために、例のはね板の入り口から下へ降りようとした。だが、不意に、自分の少し後ろに立つアイリーンを振り返る。
 赤茶の目を見開いて、アイリーンが驚いたのがわかる。
「……安心した?」
「え?」
「レインはアイリーンの友達だもんねー。心配するよねー?」
 カルラはにやにやと笑いながら、アイリーンの顔を間近で覗き込んだ。副将は困ったように顔をしかめて、そういうわけでは……、と口の中でもごもごと言い訳をしている。
 カルラは目を眇めた。そして、相変わらずにやついたような笑顔で部下に告げた。
「追っ手をかける必要はない。どうせ連中はリベルダムに戻る。近々にリベルダムを攻め落とす。副将、準備を怠るなよ」
 アイリーンがはっとした。固まったようにして、カルラの顔をまじまじと見つめ返してくる。
 返事は、と促すと、アイリーンは姿勢を正して敬礼を返してくる。
「はっ」
「よろしい。――んじゃ、後よろしくねー」
 カルラはまたひらひらと手を振って、鐘突き台から降りた。頭上で、アイリーンが困ったように立ち尽くしているのを感じたが、カルラには関係ない。
 大鐘楼の狭い階段を踊るように下りながら、カルラは思う。カルラとて、レインのことは買っている。決して知らない仲ではないし、彼女の実力は殺すには惜しい。
 だが、それと戦は別の話だ。カルラには、東方に武器を売りつけて私腹を肥やし、いたずらに世を乱すリベルダムの商人どもを駆逐するという大儀がある。レインに何の思惑があって、反乱軍に与しているかは知らないが、カルラとて引く理由はないのだ。
 それにしても、レインはネメアに心酔していた風だが、いったい、何の理由があって敵対しているのだろうか。
 皇帝にしてくれるなら考えてもいい――。
 嘘か真か――それはわからないが、レインの挑発的な言葉に、カルラはにやりと口角を持ち上げた。
 言ってくれるじゃん。

 
 ロセンを飛び出したレインとレーグは、街道から外れた森の中でようやく足を止めた。
「やれやれ、助かったよ」
 レインが森の奥に声をかけると、大きな木の影から、黒ずくめの背の高い男が姿を見せた。その後ろから、明るい茶髪の子犬のような少女が駆け出してくる。
「レインさん、ご無事ですか」
 こちらに駆け寄ってきたのは、ノエルであった。相変わらず、くりくりとした丸い琥珀色の目が、子犬に似ている。
「ロープをありがとう。助かった」
 レインが言うと、ノエルははにかんだように笑った。
 大鐘楼に縄付きの矢が射掛けられたのを見たレインは、向かいの背の高い建物の屋上に、この二人の姿を見た。レイヴンがついているのだから、ノエルに危険はなかろうとは思っていたが。
「しかし、何であの場に」
「青竜軍に、傭兵として雇われていたのですけど、レインさんの一大事でしたから」
 ノエルはそう言って、胸を張った。
「それはまた……無茶をしたもんだ」
 苦笑しながらノエルの少し後ろに立ったレイヴンを見やると、彼はぎこちなく笑ってこちらに小さく手を上げた。
「この前の礼がしたかった。これからのことはわからないが、あれからひとまず告死天使どもは襲ってきていない」
 あんたのおかげだ、とレイヴンに改めて礼を言われて、いや、とレインは曖昧に応じた。
 レインは少しだけ、感心した。あのエルファスが、ちゃんと約束を守ってくれたのだ。今度会ったら、ちゃんと礼を言っておかなければならない。
「レイヴン、これからのことはわからない、なんて言わないで」
 ノエルは形のいい眉をハの字に歪めて、背の高いレイヴンを見上げた。苦情を言われたほうは、ははは……と小さく笑って、そういう意味ではないよ、と言う。
「君がそう望むなら……俺は、君の傍にいるよ」
 少し心配ではあるけれど、彼らはひとまずうまくいっているようだ。仲睦まじい様子を目の前で見せつけられて、レインは苦く笑いながらかすかにため息をついた。
「ところで水を差すようで悪いんだけど、カフィンはどうしたの」
 レインの言葉を待っていたように、すぐ傍の木立から、赤い衣装をまとった銀髪の女がひょっこりと現れた。本当に、タイミングを計っていたのかもしれない。
「ハァイ、子猫ちゃん」
 赤い手袋に包まれた長い指をひらひらと振って、カフィンはこちらにウィンクをよこす。
「解放軍の連中はあらかた逃げたわよ。まぁ、へまして逃げ損ねた奴が何人かいたみたいだけど。そこまでは面倒みきれないわ」
「そう。わざわざ、ありがとう」
 どういたしまして、とカフィンは赤い唇を持ち上げて笑った。レインは周囲の気配を探りながら、
「ナーシェスがまたいないな」
「……最近やたらいなくなるのよ」
 ふーん、とレインは首を傾げ、
「大丈夫なのか?」
「あ、あの、すみません、私、頼りなくて」
 ノエルが恐縮したように俯くので、レインははっとした。
「あ、いや、別にノエルのリーダーの資質を問うてるんじゃなくて」
 そういうことを心配しているのではない。ナーシェスの動向には不審な点が多いが、ともに行動していないレインがとやかく言えることではない。しかし、どういう経緯で彼がノエルたちと行動をともにするようになったかは知らないが、レイヴンやカフィンのような理由ではないような気がしている。
 えーっと、とレインは言いよどんで、苦笑した顔をノエルに向けた。
「エルフって割りと、自分勝手に行動して大変だよね」
「えっ」
「そういう種族なのかな。好き勝手に生きてるよね、連中」
 ノエルがきょとんとして、レインを見上げた。
「うちはタイミングがあえば誰でも道連れになるけど、ひとり、うるさいのがいてね。仲間内の協調を保つのは大変だろうけど、ノエルはしっかりやってるよ」
 レインの仲間のエルフはうるさいどころではないが、それでも出入りが自由であるから、こちらの行動を縛ったりはしない。
 あのナーシェスと四六時中、顔を突き合わせているというのは、なかなか大変なことだろうと思う。
「そ、そうでしょうか」
 ノエルは照れくさそうに、はにかんで笑った。白くて丸い頬がほんのり赤い。
「あんたは仲間に、すごいのをつれてるな」
 レイヴンが言った。彼の灰色の目は、レインの少し後ろで立つボルダンの戦士に向いている。レーグは口をむっつりとつぐんだまま、ただじっと、レインたちの会話が終わるのを待っている。
「まぁ、色々あって」
 と、レインは肩をすくめた。その顔を、レイヴンはしげしげと見つめてくる。
「何?」
「あ、いや……あんた、そうやって、剣聖を連れてると、何だか、あの獅子帝に似ているなと思って」
 ええぇ……、とレインは渋い顔をして、肩越しにちらりとレーグを振り返った。レーグは何も言わない。決して話が聞こえていないわけではないだろうが、何か言うつもりもないようである。
「似てる……かなぁ」
 確かに、あの男に憧れて、あのようになりたいと思っていたのだから、無意識に似せている部分はあるかもしれない。けれども、さすがに、他人から指摘されるとバツが悪い。あのような厳めしい巨漢と似ているといわれるのは、年頃の娘としては複雑なものがある。
「似ている。俺は恐ろしいぞ。あんなのが二人もいるだなんて」
「…………」
 茶化すように言ったレイヴンに、レインは眉間のしわを深くして沈黙した。

 


◇ひとこと◇
 レイン、レーグ、カルラが集まるととたんに殺伐としてしまう。エステルやルルアンタが恋しいぜ。

 

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