ラドラス、沈む

 丸っこい繭玉のような台座に駆け寄ると、長く艶やかな黒髪をマントのように広げたフレアがぐったりと気を失っている。元より色白の肌は白を通り越して青白く、胸部が呼吸してかすかに動いているのが見えなければ、死んでいるのかと勘違いしてしまいそうになる。
「フレア、フレア」
 呼びかけながらフレアの肩を揺さぶると、彼女の白いまぶたがわなないた。黒いレースのような、長いまつげで縁取られたまぶたが、ゆっくりと持ち上がる。黒味がかったワインレッドの瞳がレインを捉えた。表情に変化はない。
「レイネート様……?」
 彼女はほんの少し、首を傾げた。なぜ、レインがここにいるのだ、とでも言いたげである。ぼんやりとした表情がいっそうアンニュイで、フレアの人形めいた容姿に拍車をかけている。
 フレアがぼーっとこちらを見つめるばかりなので、レインは彼女の背中に腕を回した。うまいことやれば台座から自力で下りられるのだろうが、レインはその方法を知らないし、この状態のフレアにそんなことを期待するほうが間違っている。
 抱え上げたフレアは軽かった。羽毛みたいだ。
 下ろしてやると、相変わらずぼんやりした顔でこちらを見上げている。
「大丈夫? シャリにつれてこられたんでしょう」
 レインが尋ねると、フレアは少しばかり考えるようなそぶりを見せた。しかし、すぐにゆるゆると首を振った。それにあわせて、さらさらの黒髪が、フレアの露出した白い肩をなでた。
「いいえ。わたくしは自らついてきたのです。あの方が、わたくしに役目を与えてくださると言うので」
 レインは一瞬あっけにとられてぽかんと口を開けたあと、わずかに顔をしかめた。
 フレアは自分自身のことを単なる『魔法の道具』だと見ている節がある。それを、レインも理解しているが、それにしたってあんなシャリの口車にほいほい乗ってしまうというのはまずい。どう考えたって、シャリがフレアのことを考えて、フレアのために役目を与えたわけではない。
 シャリはフレアを利用したのだ。何も知らない彼女を、己の目的のために。
 それは……――と口を開きかけたレインは、突如として横手から衝撃を受けた。気を抜いていたために、体がよろける。
「うわっ」
「レイィイイイイイイン! うわああああん、怖かったよぉおおお!」
 見れば、エステルがレインのわき腹にしがみついている。どうやら、助かって早々にこちらに向かってタックルを仕掛けたらしい。意外と元気そうで何よりである。
 エステルはいつもの旅装姿ではない。ほかの巫女たちと同じような、大きく肩と背中の開いた薄い衣をまとっていた。いつもは活発なおてんば娘然としているが、衣装一つで印象も変わるものだ。
「痛い、痛い。エステル」
「死ぬかと思ったんだよ、ボク。死ぬかと思った!」
 言いながら、エステルはレインにすがり付いて泣きじゃくる。その向こうで、ヴァンが決まり悪そうに、しかめ面を浮かべていた。フレアはいつも通り、無表情のまま、柘榴石をはめ込んだような丸い目で二人を見ている。
「わかった、わかった。悪かったよ」
 いったい、レインの何が悪かったというのか――おざなりに言いながらエステルの丸い頭をなでると、彼女は、ううぅ……、と呻きながら鼻をすすった。
「ごめんなさい、嬉しいです。助けに来てくれて、ありがとう」
 言って、また泣く。レインは、ぐずる子供をあやすようにして、エステルの背を優しく叩いてやった。
「取り込み中、すまぬが」
 エステルをなだめていると声がかかった。振り返ると、ナッジを伴ったエアがこちらを見上げている。エメラルド色をした大きな瞳は、そこに映る自分が見えるのではないかと思えるほど澄んでいた。
 エアは見た目は年端もいかない童女のように見えたが、まとった雰囲気はエステルよりよほど巫女らしかった。あるいは、レインよりももっと堂々としていた。まるで何十年も――あるいはそれ以上――生きた魔女のようだ。
 エアはエメラルドの瞳でレインを見上げて、静かに口を開いた。
「『稲妻』だな」
「レインでいい」
「では、レイン。あまり時間がないのではないか。竜王の翼は速いぞ」
 レインは竜王がラドラス撃墜のために迫っていることを思い出した。巫女たちを救出したのに安心しきって、すっかり忘れてしまっていた。
 レインはエステルに向き直るなり、彼女のむき出しになった肩をつかんで揺さぶった。
「エステル、ラドラスを降ろしたい。どうすればいい?」
「えっ、えーと……制御室、制御室に行こう」
 エステルはまだ少しまなじりに残る涙を跳ね飛ばしながら、さっと顔を上げた。
「わらわが送ってやる。地の巫女、コントロールは任せるぞ。わらわは制御室の場所を知らぬ」
「う、うん」
 レインの呼びかけに応じて、八人は小さなエアの周囲に固まった。ふっと体が浮き上がる。着いた場所は、例の球体が回っている部屋だった。シャリの姿はない。竜王が来る前に、さっさと脱出したに違いなかった。
「動かせるの?」
 不安げに尋ねたナッジに、エステルは少し自信なさげな顔でこくりと頷いた。腹の辺りで手を組む。組んだ指の節が白く色を無くすほど強く。
「やってみる。今なら、できそうな気がする」
 エステルは組んでいた手をほどいて、青と白のマーブル模様が浮かぶ半球体に手をかざした。エステルの魔力に呼応するように、白い模様がぐるぐる動き始める。
「……大丈夫、まだ竜骨の砂漠の真上だ。このまま着陸するよ」
「ゆっくり高度を落としてくれ。あっ、それから、プラントの出入り口を開けてくれ。砂漠の民がいる」
 そのほかのものは脱出の準備だ、とレインは言った。
「手分けして砂漠の民を先に地上に降ろす。巫女たちには、大変だと思うが」
「かまわぬ」
「それが、わたくしの役目だというのなら」
 巫女たちがそれぞれに頷く中で、あの、とイークレムンが挙手をした。
「エステルさんが一人になってしまうのでは。もしものとき、大丈夫でしょうか」
 全員の視線がエステルに集まる。エステルはこげ茶色のアーモンドのような瞳で、全員を見回した。
 エステルはここに残らねばならない。プラントの砂漠の民たちを避難させるなら、レインたちは傍にいてやれない。もし、万が一、竜王の翼に間に合わなかったら――。
「でしたら、わたくしが代わります」
 レインの後ろからフレアが歩み出て、そう言った。彼女は相変わらず、眉一つ動かさない。今、ここに残るリスクを提示されたというのに、それに対する躊躇いもなければ決意もなかった。 
 フレアはひたりとエステルを見据えている。エステルは驚いて、もとからつぶらな瞳をさらに丸くしてフレアを見つめ返した。フレアの真意がわからないという顔だ。
「わたくしならば、もし間に合わなくとも、最後まで残れます。誰も惜しいとは思わないでしょうから」
「フレア」
 フレアのあまりの言い分に、レインが咎めた。フレアは視線をエステルからこちらに向ける。彼女のぼんやりとしたワインレッド色の瞳と、レインの空色の瞳がかち合う。
「自分に対してそういう言い方はやめろ。少なくともあんたが消えたら私は悲しい」
 レインの強い視線を受け止めても、フレアは表情を変えなかった。ただ一言、理解できません、と首を傾げた。
「わたくしが消えることが、あなたに何の関係があるというのでしょう」
「それを決めるのはあんたじゃなくて、私だ」
 フレアは口をつぐんだ。じっとレインを見つめている。レインも彼女の瞳を覗き込んだが、そこには何の感情もなかった。
 しばらく、誰も何も話さなかった。レインの機嫌が悪いのは目に見えて明らかであったし、二人の――というよりフレアの――事情を知らない者にはよくわからない話だろう。天井で不規則に動き回る球体が、唸るような音を立てている。しばし、その風の音だけが、制御室を支配した。
 とにかくっ――唐突に明るい声が、その重たい沈黙を破った。エステルだ。彼女は丸いアーモンドのような瞳をフレアに向ける。
「ここはボクがやる。フレア、ありがとう。でも、ラドラスはボクにしか操作できないんだ。それに、フレアが死んじゃったらボクも悲しいよ」
 エステルの言葉に、フレアはやはりぼんやりとしている。どう思っているのか、じっとエステルを見つめながら、そうですか、と言った。
 エステルは例の青い半球体に向かって手をかざしたあと、今度はレインに向き直った。
「よし、プラントを開けたよ。レイン、ラドラスのみんなをお願いね」

 
 砂漠の民は千名弱いる。それを、女子供から先に五、六名のグループに分け、リベルダム近くの竜骨の砂漠にテレポートさせなければならない。
 一人で、短距離の移動ならできるようになったレインだが、大人数を長距離に、しかも連続して送り出すなどという器用な芸当はできない。それは他の面子も同じだ。アンギルダンとヴァンはほぼ魔法が使えないし、魔法を得意としているナッジでもテレポートに関してはレインより少し飛距離が伸びる程度である。
 つまり、この避難作業は三人の巫女たちに委ねられているのだ。
 ラドラスにつながったおかげで、一時的に魔道力が上がっている――エアはそう言ったが、それにしたって人数が多すぎる。もとから膨大な魔道力を誇るエアが、十数人単位で送り出しているが、それでも間に合うかどうかはわからない。
 断続的に続くラドラスの揺れと、風の音のような竜の咆哮が、否が応でもちっぽけな人間たちを焦らせる。
 レインはラドラスの地上への道を開けさせて、一人でも先に脱出させることにした。魔法が得意でない組――巫女以外のことである――は、こちらへの案内を務めることになった。
 恐怖で混乱する砂漠の民たちをなだめつつ諌めつつ、レインたちはラドラス中を駆け回らなければならなかった。
「これで最後じゃ」
 エアが最後まで残って住民の整理を行っていた男連中を送り出すと、広いプラントはがらんどうになった。誰も世話をするもののいない畑が、浩々と広がっている。
 立っていられる者はエアだけであった。駆け回っていた者が全員、汗みずくで床に倒れているのはもちろん、巫女たちだってただではすまない。魔道力を極端に消耗すると昏睡状態に陥る。
 流石に意識をなくしている者はいなかったが、イークレムンは床に座り込んで、父に寄り添うようにして青い顔を俯けていた。フレアも壁際に座り込んで、体の片側を壁にもたれるようにしている。いつも変化のない顔が、さすがに気だるげだ。
 何じゃだらしのない、とエアが童女然とした可愛らしい声で、一同を叱咤した。この小さな巫女は、その未発達の体に無尽蔵の魔道力を秘めているらしい。
「――私たちも脱出する」
 床で寝転がっていたレインは、億劫そうに起き上がってエアを見上げた。
「エア、よろしく頼むよ」

 
 エステルは、制御室の床に埋まった半球に手をかざして、それに意識を集中させていた。この半球体こそが、ラドラスの舵であり、大地そのものを表しているのだ。見た目はつるりした大理石の真球を半分にしたものに見えるが、魔力に呼応して大理石の模様がぐるぐると動き回る。それに応じるようにして、光に埋もれる高い天井に浮かぶ制御球が動きを変えていった。
 制御球の動きに合わせて、ラドラス自体が動きを変える。空中都市は、水平を保ちながらゆっくりゆっくりと高度を下げている。
 こんな巨大な空飛ぶ街を動かすことができるなんて、想像もしていなかった。そもそも、エステルには地の巫女の自覚などなかった。エステルは自分が地の巫女だとは知らされていなかったのだ。古代に滅びた魔道都市ラドラスの首長、それがエステルの知りうる自分自身の血筋であった。両親は幼いころに亡くしてしまったし、砂漠の氏族も教えてはくれなかった。あるいは、彼らも知らなかったのかもしれない。
 けれども、エステルはこのラドラスの舵をどう操ればいいか、完全に理解していた。それはたとえば、多くの人間が手を上げたり、歩いたりといった動作を意識することなく行えるように、今のエステルにとっては特別なことではなかった。いったい、どこでそんな知識を得たのだろう。ラドラスにつながったせいだろうか――ひょっとしたら、それこそがズゥが自らの血筋にかけた呪いなのかもしれなかった。
 ラドラスが上空で竜王に撃たれれば、周辺に被害が出る――レインはそう言った。だから、ゆっくり、高度を落とせ、と。
 ラドラスは、死ぬんだろうか。今ここで、幾ばくもしないうちに追いついてくる竜の吐息に焼かれて、エステルの故郷は死んでしまうのだろうか。
 エステルはラドラスが嫌いだった。
 古い役目を勝手に押し付けてきて、自分を縛り付ける枷のようなものだと思っていた。砂に埋もれる瓦礫を見ていると、いずれ自分もそうなるのではないかと、嫌悪感ばかりが胸に宿る。何の役目も負わない若い民が、町から出るのを見るたびに、羨ましくてしかたなかった。
 こんな街、なくなってしまえばいいんだ――仲間たちから離れて、砂漠への帰路を取るたび、そんな呪詛を何度つぶやいただろう。そのせいだろうか、今、ラドラスが危機に瀕しているのは。地の巫女が滅びを望んでしまったから、ラドラスが自ら死のうとしているのだろうか。
 エステルはなぜだか自然に泣けてきて、垂れてきた鼻をすすった。大きな、こげ茶色の瞳から、ぼろぼろと涙がマーブル模様の制御球に落ちていく。
 両親をなくしてから、ずっと我が子のように育ててくれた砂漠の民たち。口うるさい長老もいるけれど、憎いわけではない。冒険したいと砂漠を飛び出したエステルを、しかたないと見守ってくれるラドラスの街。その壁に穿たれた穴から眺めた砂漠の夕日。
 今、エステルの脳裏によぎるのは、そんな思い出ばかりだ。
「どうしよう……ラドラス、なくなっちゃうのかな……。全部、砂に埋もれて――ボクが、そんな風に思ったから」
 エステルはぼろぼろ泣いた。高い天井中にエステルがしゃくり上げる泣き声がこだましている。
「――そんなこったろうと思った」
 ふいに、呆れたような声がして、エステルは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。弾かれるように振り返ると、制御室の入り口に、長身の女が立っている。
「レイン……?」
「ひとりで泣いてるんじゃないかと思って」
 案の定だよ、とレインはこちらに歩み寄ってきながら、肩をすくめた。
「レイン、何で……レイン?」
 思わず制御球から意識が外れる。がくんっ、と激しい縦揺れがエステルたちを襲った。
「集中ー!」
「はいぃ!」
 レインの鋭い声に、エステルは泣くのも忘れて制御球に向き直った。胸がどきどきしている。どうしてレインがここにいるのだろう。砂漠の民たちと一緒に、逃げたはずじゃなかったのか――。
 エステルの隣に立ったレインは小さく息を吐いた。
「ラドラスがなくなっちゃうかもって言われて、はいそうですか、って平然としていられるほど、あんた冷たい子じゃないよ」
 現実的じゃないって言うの?――レインは肩をすくめて、くすりと笑った。こんな絶体絶命の状況で、なお、こんな風に笑える彼女はどうかしている。
 どうかしているが、たまらなく頼もしかった。
「竜王に破壊されたくない、と思ってる」
 レインが探るような目でこちらを見るので、エステルは口をへの字に曲げて、またぼろぼろ泣き始める。
「故郷がなくなるのは、辛いことさ。あんたの気持ちはよくわかる。だから、一緒にいてあげる」
 手伝えることはなさそうだけどね、とレインは苦笑した。
「で、でも、竜王が……」
「そうさ。泣いてる暇なんかない。とっとと砂漠にラドラスを降ろしてくれ。もう二人しかいないんだ。多少無茶してもいいだろう」
 ほら、集中!――と友人は大きな手の平で、エステルの背中をばしっと叩いた。

 
 竜王が来るまでにできる限りラドラスを砂漠に戻す。それで竜王が納得して帰ってくれればいいが、それでも捨て置けぬと攻撃してくる可能性は高い。
 高度を下げる速度を速めたラドラスは、ひどく揺れた。速度を上げたといえども、これだけ巨大なものをそっと着陸させるというのは、ひどく時間がかかるものだ。
 制御球に手をついて、レインはエステルの華奢な体を支えるようにした。もし、竜王が追いついたら、このままテレポートで脱出するつもりである。
 エステルがラドラスを思う気持ちはよく分かる。単純に故郷が消えて悲しい、というだけではない。ラドラスが都市機能を失い、砂漠の砂に埋れたら砂漠の民は住む場所をなくす。仕事も、家も、財産も、何もかもなくして砂漠に放り出された彼らはどう生きていけばいいのだろう。彼女はレインとほとんど歳も変わらないというのに、立派に族長としての意識があるのだ。
 だが、だからといってエステルを放っておくことなどできない。ラドラスに気を取られ、竜王の吐息に巻き込まれでもしたら一巻の終わりだ。彼女が自分に気をかけないのなら、レインがエステルを気にかけておく必要がある。
 ラドラスの揺れが増す中で、突然、ふわりと奇妙な風がレインの長く伸びた襟足をなでた。その風に肩を叩かれたような気がして振り返ると、わらわじゃ、という童女の声が聞こえた。エアである。どうやら、風の力で声を届けているようだ。
「レイン、地の巫女、竜王の影が見えた。限界じゃ。脱出せよ」
 レインはエステルを振り返る。エステルにもエアの声は聞こえていたようで、顔面が蒼白になっている。
「もうちょっと、もうちょっとだから! お願い、レイン、もう少しだけ」
 もう少し待って、と言いながら、エステルは必死の形相で制御球に向き直る。
 レインは逡巡した。エステルの気持ちはよくわかる。レインだって、オズワルド村を救える立場にあったなら、同じようにしたに違いない。もちろん、命が助かるのは第一だ。けれど、家や、そこにある風景や、思い出を守りたいと思って何が悪い。
 身一つで生きていけるほど、レインたちは強くない。支えてくれるものが必要だ。レインは愛用の槍を握り締める。
 ラドラスの振動がさらに激しくなった。レインはエステルの体をしっかりと支えて、振動音に負けないくらい大きな声を張り上げた。
「心中する気なんてないからな! 本当に危なくなったら脱出する」
 エステルは答えなかった。ただ、振動がさらに大きくなった。間に合おうが間に合うまいが、衝撃はかなりのものになるだろう。
 レインは口の中で転移の呪言を唱える。
 そのときだ。轟音とともにラドラスが激しく跳ね上がった。着地の振動ではない。その激しさに耐え切れず、レインとエステルは床に転がった。爆発音で聴覚がおかしくなったようだ。世界から音が消えた。ただ、目の前を、瓦礫が雨のように降り注いでいる。
 レインはエステルの体に覆いかぶさるようにしながら、移動の魔法を唱えた。だが、そのときの友人の横顔に、レインは一瞬ぎくりとした。
 エステルは自分の故郷が消える瞬間を見ていた。それは、住人が消えた早朝のオズワルド村を駆け抜けたときの、かつてのレインの横顔だった。
 レインは天を仰いだ。目もくらむような眩しい光の中を、小さな竜の影が旋回していた。
 光が消える。力を失った制御球が落ちてくる。瓦礫と砂がレインの視界を覆った。

 ラドラスは、沈んだ。

 


◇ひとこと◇
 ラドラス編終了。一話が短い話が多かったですね。

 

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