第54話 月光 解説

◇恋の手ほどき
 レインは自分の気持ちにも、相手にもちゃんと向き合う時間がないのがいかんと思うよ。

 レインは戦うことに慣れすぎて、スイッチングの技術が向上しすぎたのがいかんのだと思います。
 自分の中にあるわだかまりとか、疑問とか、矛盾とか、とりあえず心に作った棚に置いて、先に進むことができる。ON・OFFの切り替えがなめらか過ぎて、自分の気持ちすら置いてけぼりにしちゃうことがあるのだと思う。

 命の張り合いをして生きているレインには、それは確かに必要な技術で、仕方ないこと。数々の強敵と戦わなければならない彼女は、個人的なことで悩んでいたら、一瞬で死んでしまいます。

 一番いいのは、戦うのをやめること。全部放り出して、穏やかに暮らすことではないかなと思う。
 できないし、しないだろうけど。

◇ケリュネイアのご馳走
 ケリュネイアは味がはっきりしたご飯を作りそうなイメージ。大味っていうか、なんていうか。
 ケリュネイアは家事ができないわけではないんだけど、全体的に豪快なイメージがある。繊細なことできない、みたいな……。あれ? 弓使い=器用のイメージどこいった。

 濃い味が好きなレインには、ケリュネイアの料理は好ましいようです。セラには不評かもしれない。食ってないけど。
 オルファウスさんの場合は、なぜかおいしい料理。隠し味がインビジをかけたように隠れきってるので、どうやったらこういう味が出るのかわからない感じ。とてつもない深み。味の多重構造。
 あと、色んな料理を知ってそうだ。

 レインは食文化豊かな南部育ちなので、割りと器用に料理を作ります。アスティア母さんも料理上手だし、酒場の娘だしね。
 まぁ、田舎料理でしょうけど。

◇忘却の仮面
 ミイス村が忘却の仮面を管理している、というのはロイなら知っているようなので、そこからセラが知っていてもおかしくないと思います。(ロイ兄さん、妹も知らない村の秘密を外部の人にほいほいしゃべっちゃうのかい……、っていう戸惑いはありますけど)

 ただ、記憶を奪う代わりに装備者の能力を高める、という仮面の力は知らなかったようですね。そうでなければ、サイフォスに「わからないのか」とは言わないと思います。

 小説内では、オルファウスさんの忘却の仮面の説明を聞いて、サイフォスの正体に確信を得たようです。

◇月光
 せっかく精神が斬れる刀なのに、幽体化した敵に効かないってのは、納得できないぜ。

 序盤が一番優遇されてるのはミイス主だと個人的には思うのですが、その一番の理由はセラです。(もうひとつの理由は復活の真珠。あんな便利なもんがそこらへんに落ちてるなんて!)
 でもラストバトルあたりで、あんなに頼りになったセラがアイテムドロッパーと化しているのを見ると、世知辛い世の中だなぁ、と思います。

 親密度が低そうな割りにレインに自分の素性を話したのは、レインが自力でアーギルシャイアやシェスターのところまでたどり着いていたからでしょう。
 何かアンティノ商会についても詳しいし。利用したほうが早い、とでも考えたんでしょうね。
 あと、レインはセラを止めるような「甘っちょろい冒険者」じゃないってところもあるかもしれない。

◇セラの決断
 セラに関して少し疑問に思うことがある。
 彼はいったい、いつどこでアーギルシャイアのことを知ったのか、ということです。

 セラの宿屋イベントを見る限り、シェスターの失踪を知ってから、ロイに彼女の捜索の手伝いをお願いしようと決めるまでの間だろうと思います。
 単純に姉が失踪しただけなら、セラは自分の力だけで姉を捜索するでしょう。でも魔人とかいうわけのわからん奴が介入してきた、となれば、闇の神器の守り手であるロイを頼りたくなるのはよくわかります。

 で、「シェスターがアーギルシャイアに体を乗っ取られ、かつ彼女の体内で二つの魂が競合している」ということを、セラはどうやって知ったのでしょう。
 考えられる可能性は二つ。ひとつは、アンティノ商会のシェスターの同僚から聞いた説。もうひとつは、アーギルシャイアが自分から名乗り出た説。
 前者はまずないでしょう。アーギルシャイアがわざわざ研究所の連中に「私は魔人アーギルシャイア、このシェスターの体を乗っ取ってやったわ!」とか言う意味がないし、それを伝聞でセラが聞いたとして信じるとは思えません。
 というわけで、アーギルシャイアが自分からセラに名乗り出たのでしょう。目的は二つあります。ひとつは闇の神器の記憶を探るため。忘却の仮面の話はロイ→セラ→シェスターという流れでしょうから、より詳しく知ってそうなセラのところにいった、と。
 もう一つの目的は、セラにシェスターの体を乗っ取った自分、を見せびらかしにいったのではないかと思います(これが目的というか、ついでというか。Sっ気が出たというか)

 このときにアーギルシャイアが自ら、「自分の中にはまだシェスターの精神が残っていて、苦しんでいる」とでも煽っていれば、一番話は簡単に進みます。

 姉の精神がまだ無事だと知ったセラは、まず彼女を助ける方法を探すでしょう。姉のことを考えるのが趣味な男が、いきなり殺してでも取り返す、という発想にいくのはちょっと不自然です。
 ところがどっこい、ジルオールの世界では基本的に一つの肉体には一つの魂という原則があるものと思われます。理由は破壊神ウルグ。仮にも神ですら肉体を乗っ取るには、肉体に元々宿った魂が邪魔でそれを引きずり出して壊さなくてはなりません。
 色んな反則技を知っていそうなシャロームも、ベルゼーヴァの肉体を無理やり乗っ取ることはできていません。

 アーギルシャイアはイレギュラーというか、人間の魂と同化できる能力があるのではないかと思います。同化するというより、寄生して乗っ取るって感じですかね。(そのせいである種の不安定さがあるのですが、それはまた別の話)

 一つの肉体に二つの魂は存在できない、という事実は、セラにとっては絶望だったでしょう。どれくらいの時間がシェスターに残されているかはわかりません。シェスターを取り戻す方法を探している間にも、彼女の魂はアーギルシャイアに取り込まれているかもしれません。
 セラにはもう「精神を切れる」月光に頼るしか、道は残されていなかったのでしょう。

 セラの「殺してでも取り返す」という言葉は、ちょっと聞いただけでは尋常ではない発言に聞こえます。姉の無事より、どんな形であれ姉を手元に置いておくことを優先する発言のように聞こえるからです。
 けれど、彼の「殺してでも」という言葉は、姉を助ける覚悟の証だったと思います。決闘ですら相手の命を奪わない男には、相当の決意と覚悟でしょう。けれど、そういう覚悟を持たないと、彼はシェスター(の体)に刃を向けることができなかったんじゃないかと思うのです。
 その人を殺してしまうかもしれないが、助かる可能性はわずかにでもある。黙って見ているだけなら確実に死ぬ。こういう状況なら、セラの立場に立てばそれに賭けようと思うのもわからんでもないですね(できるかどうかはともかく)

 セラの得物が月光だったこと、それをシェスターが知らなかったこと、ロイの記憶を読まなかったことが、アーギルシャイアの敗因でしょう。

 そう考えると、何でロイの記憶を読まなかったのかな? 仮面のせいで記憶が飛んじゃってるから、読めなかったってことかな。

<追記>
 ジルオールでの魂の法則に関して、本文中に加筆しています。